【民藝を巡る旅】古いものに習い、新しいものを生み出す。民藝の枠にとらわれないものづくり
日々のくらしに美しさを見出す「民藝」の作り手に、その土地と密接に関わる民藝品の魅力について伺う数珠つなぎ連載。今回は、19の陶芸工房が集まるやちむんの里(沖縄県読谷村)に位置する北窯、松田米司工房の松田健悟さんにお話を伺いました。
目次
土も釉薬もすべて沖縄のもの。4工房が共同で焼く読谷山焼北窯
「やちむん」とは沖縄の焼き物の総称。そのなかにも壺屋焼、湧田焼などその土地の名前がついた焼き物がありますが、ここ読谷地域はやちむんのルーツのひとつである喜名焼が焼かれていた場所。のちに読谷山焼(よみたんざんやき)という言葉が生まれ、1992年に4つの窯が共同で開いたのが読谷山焼北窯です。うつわを形づくる土は沖縄各地から運ばれ、窯ごとに独自に配合されます。鮮やかな色彩と躍動感のある絵付けの印象が強いですが、実際には染付や飛び鉋など技法や紋様はさまざま。共同売店にはそれぞれの窯のうつわが並べられていますが、作者名などは書かれていません。「僕のことは正直どうでもいいんです。だから器に名前を入れることもないです」穏やかな口調で話す松田健悟さんは、高校を卒業してすぐ陶工の道に入り、父・松田米司氏のもとで12年目。工房で働きながら、2017年前には米司氏とともに自宅に「tou cafe and gallery」をオープンしました。
年4回行われる窯入れを2日後に控えたこの日、工房では絵付け作業が行われていました。
―――松田米司工房のうつわの特長はありますか?
形も絵付けもきれいで整っているところでしょうか。師匠が丁寧な仕事をする人なので、僕たちもそれを見て習うようにしています。
宮城工房は絵付けが大胆だとか、與那原(よなはら)工房は青い釉薬が鮮やかだとか、よく見るとそれぞれに特徴があるので、常連の方ならどのうつわがどの工房のものかわかるようです。
―――民藝としてのやちむんの魅力はなんでしょう?
つくり手のほとんどは民藝を意識しているわけではないと思うんです。みんな焼き物が好きで、沖縄が好きで。ただ、仕事のやり方や意識の持ち方、暮らし方が、民藝と呼ばれるものだったのだと思います。僕自身、伝統的なものづくり以外にも自分がやりたいこともしていますから「民藝の人です」とは言い切れない。ただ、沖縄で生まれたものを自分のくらしている場所に持って帰ることで、うつわを通して沖縄を感じてくれたなら、それが民藝の魅力なのだと思っています。
―――厚みがあってぽてっとしている形が沖縄らしいと感じます。
決して沖縄らしくしようとしているわけではなくて、土がそうさせているんです。地元の素材を使うと、どうしてもそうなってしまう。自然にならってつくられたからこその風合いや、自然が持つエネルギーを感じられるのがやちむんのいいところですね。
古いマカイをお手本に生まれる新しいやちむん
―――やちむんのつくり手として欠かせないうつわはありますか。
工房の資料のひとつなのですが、琉球王朝時代くらいのマカイ(お碗)です。
―――さきほど話したやちむんとだいぶ印象が違いますね。
昔のうつわって、実はシャープなんです。絵付けもされていなくてシンプルに見えますが、未だに再現することはできないくらい、難しい形です。白いうつわは王様をはじめとした位の高い人に向けたしごと。つまり、つくり手のエネルギーがものすごく込められている。沖縄というと「なんくるないさ」の精神で、おおらかな印象を持たれると思いますが、昔の職人の“ものに対する堅実さ”をこのうつわからは感じるんです。民藝の父と呼ばれている柳宗悦氏が「民藝運動」をしていた(大正から昭和初期の)時代のうつわもそう。でも、みなさん知らないですよね、昔のうつわ。
―――知らなかったです。
僕は将来的にこういう仕事がしたいんです。すっきりしていて、でも重厚感がある、昔の形に習ってつくりたい。昔に戻るようでいて、一周回って新しい、そんな沖縄のうつわをもっと多くの人に知ってもらいたいと思います。
―――古いものに学びながら、新しいことに取り組んでいるんですね。
4年前に師匠である松田米司工房のギャラリー「tou café and gallery」ができたので、そこでは好きなことをさせてもらっています。
―――創作のアイデアはどこから?
便利なもので、北窯から出て行った先輩たちや、小鹿田焼の坂本創くんもそうですが、SNSで世界中の人の作品を見ることができます。ただ、そこからアイデアをもらうというよりは、たくさん見たあとに改めて沖縄のうつわを振り返って「やっぱり自分はこっちだな」と思うことのほうが多いかもしれません。
陶工になりたての頃は上手くなりたい一心でつくることに集中していましたが、12年目で教える立場にもなり、つくる以外にも考えることが増えたので、心を整えるために周辺をぶらぶら散歩するようなこともあります。
たくさん使ってこそ民藝
―――松田さんが普段使いしているうつわを教えてください。
コロナ禍で、初めてネット通販でうつわを買いました。黒木富雄窯の小鹿田焼です。東京にある小鹿田焼専門のショップがSNSにアップしているのを見て、かっよさに惹かれて購入しました。結婚して子どももいるので、食卓で活躍してくれています。
―――うつわを選ぶときのポイントはありますか
使い勝手よりも、自分がいいと思ったものですね。民藝は日用品なので、何に使うかわからないものはほとんどないですから、結果的に使えるものばかりだと思います。今回初めてネットで購入してみたのは、自分の感覚を試したいところもありました。本来は手に取ってしっくりくるか確かめたいのですが、そうできなかった。画面越しでも、結果いいものが届いたので、安心しています。
―――これからやちむんを使う人に伝えたいことは
大きな登り窯が特徴ではありますが、実際にはガス窯もありますし、登り窯で焼かないとやちむんじゃない、とか、そういったこだわりは正直ないんです。もちろん大切に使ってもらえたら嬉しいですが、誰がつくったかも気にしないでほしい。購入して手元にきたらもうその人のものですから、どんどん使ってください。割れたらまた、買いにきてください。
おわりに
・読谷山焼北窯
住所:沖縄県中頭郡読谷村座喜味2653-1
電話:098-958-6488(売店)
アクセス:那覇バスターミナルからバスで約1時間、親志より徒歩約10分
売店営業時間:9:30~17:30
休日:不定休
・tou cafe and gallery
住所:沖縄県中頭郡読谷村伊良皆578
電話:098-953-0925
営業時間:11:00~17:00
定休日:日、月曜日、年末年始
沖縄最大級だという登り窯は、想像以上のスケール感。これだけの大きさのものが現役で使われているのも珍しいのだそう。窯入れの際には、熱でまつげが焼けることもあるのだとか。それでも、一番大変な作業は? と尋ねると「形を決めるとき」だと松田さんは言います。「もっともっと形を勉強したい」穏やかな語り口の中に、はるか昔の職人の“堅実さ”を写すような強い思いを感じました。
◆松田健悟さん
1991年沖縄県生まれ。高校卒業後、父・松田米司氏に師事。工房での作陶のほか、個人作品の制作を行い、ギャラリーでの展示や企画展などにも参加している。