高台にあるガラス張りの巨大な家。
高い天井と、陽当りのよいリビングルーム。
ベッドルームとバスルームは各々8つずつ。
メインキッチンの他に、使用人用のキッチンがあり、
ワインセラーは一部屋ぶんの大きさ。
庭に広がるのはインフィニティープール。
昨今どこへも出かけられず、引越しの物件探しにも鬱々としていたら、友人がお勧めのYouTubeチャンネルを教えてくれた。それは世界の超高額不動産物件を紹介するEnes Yilmazer(エネス イルマゼル)という人のチャンネル。
たとえば、ニューヨークマンハッタンの高層階に位置する、杉本博が内装を手掛けたアパートメント748平米、1憶3500万ドル也、など。
深夜にそれを観だしたらとまらない。
旅気分もさることながら、桁外れのラグジュアリーというやつは、なんて気持ちがいいんだろう。
思えば、ポン・ジュノ監督の映画『パラサイト』も、デヴィッド・フィンチャー監督の『ゴーン・ガール』も、とんでもない金持ちの家を観ることができるというだけで、なんだか得した気がする。
かつてエジプトの王がピラミッドを建てたのも、マリー・アントワネットがベルサイユ宮殿で着飾ったのも、なんだかわかるような気がする。巨大さや華やかさや豪奢さという明快なやつは、もれなく人を興奮させるものなのかもしれない。
ひとまず、私がやらなくちゃならない実際の引越しはさておく。
我が身の予算と東京の家賃の高さを前にすると、楽しいどころか、突きつけられる現実に心が折れそうになることの方がずっと多い。10万円と15万円の違いには胃がキリキリする。
しかし100億ドルと150億ドルの違いは、わくわくする(少なくとも私は!)から、不思議なものだ。
かくして私の昨今の楽しみは、かの超高額不動産物件の品定め。
そうねえ、おなじ100億ドルくらいならやっぱりニューヨークよりロスのプール付きの家がいいわよね。
マイアミのオーシャンフロント? まあ、いいかも知れない。
でも、いくら広くて高級でもちょっとこのデザインはないわ!
え、これがたったの2550万ドルなの? お安いじゃない!
酒を飲みながらの独り言である。
とはいえ根が貧乏性な私は、こんなに広い家だと掃除も大変そうだし、夜はひとりだったら超怖そう、という気持ちをどうしても拭いきれないのだが。
待ち望むのはVRゴーグルの進化。
私は東京の狭い家のベッドに寝転びながら、今日は南フランスの城に暮らす気分を味わい、明日はマンハッタンの99階からセントラルパークを見下ろしたい。
結局のところ、それでもやっぱりどこか旅へでかけたくなって、本物の列車や飛行機に乗ってでかけるために、いそいそ荷物をまとめることになるのだろうけれど。