【川瀬良子の農業旅】愛知県で収穫体験! 中野悦宏さんが育てる“鍬掘り”レンコンとは?
旅色アンバサダーの川瀬良子です。全国的にも珍しい、鍬(クワ)を使って手作業で掘り出す「鍬掘りレンコン」を栽培する、愛知県愛西市にある中野悦宏さんの農園を訪れました。2021年11月からスタートした一般でも参加できるレンコン掘り体験。そのとっても珍しい収穫方法は、驚きの連続です!
文・写真/川瀬良子
目次
“鍬掘り”は愛西市に伝わる伝統的な収穫方法
中野さんと出会ったのは、2022年2月。私が司会を務めた農業関係のトークイベントのゲストとしてお話を伺いました。アパレル業の経験を経て、後に家業のレンコン農家を継いだ中野さん。レンコンというと、水田に入って腰の上まで水に浸かりながら、大きなホースからの水圧でレンコンを吹き上げる水掘りが一般的なのですが、中野さんは、水田から水を抜き、土の下にあるレンコンを鍬で1つ1つ手作業で掘り出すという、愛西市立田地区に伝わる方法で収穫されています。長年のご経験と勘で「土の中のレンコンが見える」という言葉はとっても印象的でした。イベントでは、愛西市の地域と“土を守っていきたい”というお話もされていたので、実際に体験してみたい、そしてその言葉の真意を知りたい! と強く思っていたところでした。
友人と気になる畑がある愛知県愛西市へ
ゴールデンウイーク中の5月5日。実家のある静岡に帰省していたので、地元の友達を誘ってレンコン掘りへ。20年来の付き合いですが、一緒に農業旅は初めて! これもまた新鮮です。
新幹線で名古屋駅まで行き、JR関西本線に乗り換え弥富駅まで約20分。「関西本線」「四日市行」などの文字が目に入って来るたびに、旅感が高まります♪
弥富駅からレンコン田までは車で約15分。スタッフの佐藤さんが迎えに来て下さいました。実は佐藤さんは司法書士。地域を盛り上げるため中野さんのサポートをされています。当日までメールなどのやり取りをしていたのは佐藤さんで、中野さんに栽培や収穫に集中してもらうため、マネージャーのようなことも担当しているのだそう。出会って数分でこのようなお話を聞いて、お二人の友情を超えた熱い思いに感動です。
レンコン田は土手沿いにあり、斜面の緑がとても綺麗! 田んぼに到着すると、中野さんがショベルカーに乗って土を掻き出す作業をしていました。鍬で手作業で掘る、と思っていたら、その前にショベルカーで厚さ約20センチの土を掻き出す作業があるのだそう。いやぁ~迫力にびっくりです!
レンコン掘りに悪戦苦闘!? 収穫体験
ひと段落し、挨拶を済ませ、いよいよ収穫体験! 使う道具は主に「備中鍬」と「うぜり」の二つ。鍬は4本の爪になっています。うぜりは、横になっているレンコンをテコの原理で持ち上げるときに使うもの。どちらも初めて目にしました。「鍬を自分の手のように扱う、やっていくとそういう感覚になってくるんですよ」と中野さん。まずはお手本を見せていただきました。
黒い土から少し出ている芽がレンコンの位置の目印に。大事なポイントは2つ。①レンコンの大きさ形をイメージして、その周り2センチ位のところに鍬を入れる。②掻き出した土は後ろに置く。初めて体験する人は、掘った土をレンコンの上に置いてしまうそう。中野さんの説明を聞きながら作業を見ていたら、土の中から突然ゴロンと、長いレンコンが出てきました! 思わず「どこから出てきたの?」と、友達と声を揃えて言ってしまいました(笑)。まるで手品みたい!
こんなにすごいことが私にできるかなぁ~。中野さんが大切に育てたレンコンを傷つけたり折ったりしたら申し訳ない。と、ものすごい責任感に襲われたのですが「みなさんに体験してもらうための田んぼなんで気にしないで下さい。掘っていくうちにわかってくると思うので思いっきりやって下さい」と大らかな中野さん。
さっそく、思いっきり鍬を振ってみました。と言いつつ腰が引けて、鍬を入れた位置がレンコンから離れすぎ……スコップも使って少しずつ土を掻き出し、レンコンの輪郭がやっと見えてきました。1本目は中野さんが一緒に掘ってくれました。レンコンの節の横にうぜりを入れて、テコの原理でよいしょ~! 白く長いレンコンが少し上に動いたのですが……同じ場所に戻ってしまいました(笑)最終的には指で土を引っかくように掘り、何とかレンコンを掘り出すことに成功。先端が折れてしまったけど、嬉しい~。中野さんも「いいですね」と言ってくれるのでさらに感動。この後も何本かチャレンジしたのですが、ひと振り目でサクっとレンコンを切ってしまったり、最後掘り出すときに節がポキっと折れたり、と同時に、心も折れます(泣)。気がついたら1時間半も掘り続けていたのですが、1度も一人ではうまく収穫することができませんでした。これは難しい! 中野さんも、就農当初は何度もレンコンを切ってしまい、心が折れながらも鍬の角度などを試行錯誤し、一年越した辺りから何となく感覚がわかってきたそうです。そんな苦労を体験しつつ、同時にみんなで一喜一憂する感じはめちゃくちゃ楽しくもありました!!
レンコンをきっかけに愛西市を知ってほしい
この地区で穫れるレンコンは、シャキシャキ系の「ロータス」と、もっちりとした食感と甘さが特徴の「備中」。いずれも1本を収穫するのに、これだけの手間暇かかるなんて。4代目の中野悦宏さんは、農業歴10年目。1.7ヘクタールの畑をお一人で管理されています。「こんなに大変な鍬掘りレンコンをどうして続けていらっしゃるんですか?」とお聞きしたところ「土を付けたまま出荷することによって、新鮮さを保ったまま届けることができるのでおいしいんですよ。作り手としていいものを届けたいんですよね」とのこと。どこまでもまっすぐな志です。
レンコン掘りを一般向けのイベントとして始めたのは、2021年の11月から。今シーズンは私が参加させていただいた5月5日が最終日で、次回は2022年9月からスタートするそうです。ほぼ毎週末と祝日、平日でも希望があれば対応可能とのこと。どこまでもお客さまファーストです。「大切なレンコン田に、イベントとして人を入れることに抵抗はなかったんですか?」と伺うと「僕の弟と佐藤くんや仲間が、昔から地域を盛り上げたいと言っていて、レンコン田に人を呼んでイベントにしよう、と提案してくれたんです。そこに抵抗はなかったですよ。土だからこそ、子どもでも気軽に参加できますし。自分が好きな、この落ち着く景色をいろんな人に知ってもらいたいんです」
「イベントを開催することによって、いつも静かな町が賑わって、ここから近くの道の駅に寄ってくれたり、どこか旅行に行ったり。これからもっとこの地域を知ってもらって、ちょっとでもみんなが来てくれれば」と話す中野さんからは、地域への深い愛が伝わってきます。「お客さんに直接伝えることができるから」と、県内各地のマルシェにも出店されています。切られていない、土がついた状態のレンコンを見せると、目の前でお客さんが驚いてくれるといいます。「みんなが喜んでくれることが自分も嬉しいです」と何度もおっしゃっている姿が印象的でした。
ちなみに今年のレンコンは、昨年の台風などの影響で全国的に不作なのだそう。さらにレンコンは掘ってみないと出来がわからない作物。そんな貴重なものを掘らせていただいたなんて! みんなに喜んでもらいたい、という気持ちを受け取り、改めて感謝の気持ちが沸き上がってきました。
土を守り、先人たちの思いをつなぐレンコンづくり
最後に、2月のイベントの時から気になっていた、レンコンを守っていきたい、ではなく「土を守っていきたい」という言葉の真意をお聞きしました。「木曽三川が運んできた肥沃な恵まれた大地、ということもあるんですが、いいレンコンが採れるのは先人たちのおかげなんです。重機のない時代に本当に手作業でやっていた曾祖父と祖父の代、そして父親の代にも撒いてくれた有機肥料のおかげで今のいい土があっていいレンコンができる。同じように、自分が撒いた有機肥料も何十年後かに効いてきます」先人たちが作ってくれた土を、次世代の子どもたちに残していきたいそうです。
「いい土を守ることが地域を守ることに。レンコンを作っていくことがレンコンがあるこの景色を変えないことに繋がる。僕がレンコンをやめてしまったら、ここが放棄地になったり景色が変わってしまいますからね」世代を超えて誰かのためを思う気持ちに、感銘を受けました。なんだか楽しそう! と、参加したレンコン掘りでしたが、思いがけず世代を超えた歴史に触れることができました。
作り手の思いと一緒にかみしめるレンコン料理
収穫したレンコンを土付きのまま持って帰りお料理、きんぴらにしました。いろんな思いがこもった土なんだ、と考えながら洗い、食べる時も大切にかみしめながらいただきました。レンコンで鮮度を感じたのは初めて! サクサククセになる食感で、とってもおいしかった~! 収穫体験直後から全身筋肉痛でしたが、疲れも筋肉痛も吹き飛ぶおいしさでした(笑)。収穫の大変さ、何より農家さんお想いを知ると、味わいが変わりますね~。
「7~8月中旬頃はレンコンの花がとても綺麗ですよ」と教えて下さったので、また夏にこの土地の景色と、地域愛にあふれた中野さんに会いに、友達と訪れたいと思っています♪
中野さん、佐藤さん、本当にありがとうございました!
◆The Original Villager's
HP:https://t-o-v.info/
農園住所:愛知県愛西市早尾町
農業体験 予約ページ:https://t-o-v.info/experience/
※次回予約は2022年9月からの予定