日常を感じるまち、空知へ 味に“よりみち” #3

日本の近代化を支えたソウルフード 「炭鉄港めし」(たんてつこうめし)

美唄市や赤平(あかびら)市などにある個性的な名物料理。
そのルーツには、日本遺産「炭鉄港」が絡んでいました。
歴史を知らずに食べるのと、知ってから食べるのとでは味がまるで違う料理が「炭鉄港めし」。
スタミナがつく5つを取り上げ、
「炭鉄港」検定上級ガイドの大山さんにその楽しみ方を伺いました。

文/旅色編集部

お話を聞いたのは

「炭鉄港」検定上級ガイドの大山幸彦さん

日本遺産「炭鉄港」検定上級ガイド、及びガイドを育成するガイド講師。小樽出身で全国通訳案内士(英語のライセンスガイド)として活躍中。ライターとして、札幌市内のおすすめ情報を寄稿することも。ホルン奏者でもあり、趣味はワイン、コーヒーショップ・レストラン巡りなど。いまハマっているのは「ズリ山登り」。※ズリ山とは、坑内から出た岩石など不要な部分を積み上げ、山となったもの。

炭鉄港とは?

明治2(1869)年、政府は日本近代化のため、天然資源が豊かな北海道の本格的な開拓に着手。地質学調査により、空知には良質な石炭が眠っているとわかり、たくさんの炭鉱が開かれていきます。採掘した石炭を運ぶための鉄道が敷かれ、線路で繋がった室蘭・小樽には港湾設備が整備され、ともに発展。隆盛を極めましたが、1970年代半ばになると、石炭産業は輸入エネルギーにおされて、縮小・消滅へ。ただ、そのあとには歴史的に価値のある産業景観とともに、各地から集った労働者が故郷の料理をアレンジしたり、安価で栄養満点の食材を使って生み出したりして独特な食文化が残りました。過酷な環境のなかで働き、日本を支えた人たちの栄養源となった「炭鉄港めし」が今注目を集めています。

炭鉄港とは?
美唄市 貴重な鶏肉をまるごと味わう1串 美唄焼き鳥

美唄市 貴重な鶏肉をまるごと味わう1串 美唄焼き鳥

「炭都(たんと)」として全国でも有数の炭鉱のまちだった美唄市。多くの労働者のために、1本の焼き鳥に、もも肉や胸肉のほか、レバーやハツ、キンカン、鶏皮などそれまで使われていなかった部位をあわせた「美唄焼き鳥」が誕生しました。肉の合間に挟まれるのは、地元で多く栽培される玉ねぎで、「おいしくてスタミナがつく」と労働者に喜ばれて根付きました。塩こしょうのシンプルな味付けながら、1本でいろんな肉が味わえるので、1人10~20本食べるのは当たり前。食べきれなかった串はかけそばに入れて〆にするなど最後まで楽しめます。

問い合わせ先/0126-63-0112(美唄市経済部経済観光課)
「炭鉄港」検定上級ガイドの大山幸彦さん

玉ねぎの甘さと、キンカンなどモツの食感がよいアクセント。全くしつこくないので、1人10本以上は余裕で、食べてる最中に追加オーダー必至です。同じく、炭鉄港めしである「室蘭やきとり」(豚肉使用)のタレ味と好一対をなす名物で、ぜひ食べ比べてほしいですね!

芦別市 中国からの引き揚げの歴史が生み出した ガタタン

芦別市 中国からの引き揚げの歴史が生み出した ガタタン
芦別市 中国からの引き揚げの歴史が生み出した ガタタン

戦後、中国からの引揚者が、芦別市内で開いた中華料理店で提供したのが始まりで、中国の家庭料理からヒントを得た創作料理。白菜やにんじん、玉ねぎなどの野菜のほか、エビやしいたけ、ちくわ、小麦粉を練った団子など10種類以上の具材を、とろみのある中華風のスープで煮込み、溶き卵を落としたもので、坑内の厳しい仕事を終えた人たちのお腹と心を満たしていました。今では、それをベースに、ガタタンラーメンやガタタンチャーハンなどのアレンジが加えられ、市内では多彩なガタタンが味わえます。

問い合わせ先/0124-27-7700(一般社団法人芦別観光協会)

和製ポタージュとでもいうような、ふわふわトロトロのあんの中にはさまざまな具材の旨みが溶け込んでいて、とにかく温まります。優しい味の炭鉄港めしです。汗をかきながら完食すれば、腹持ちがよく、ハッピーな気持ちになります。お店で熱々を食べてください。

「炭鉄港」検定上級ガイドの大山幸彦さん
赤平市 家族や同僚との絆を確かめる家庭料理 がんがん鍋

赤平市 家族や同僚絆を確かめる家庭料理 がんがん鍋

赤平には、昭和初期から相次いで炭鉱が開かれました。炭鉱を中心に築かれたまちは、その家族たちと住む家も鉱山からほど近く、炭鉱夫だけでなく家族も含めて独特の強い絆が育まれました。そこで食べられていたのががんがん鍋。味噌ベースのスープに、豚のホルモンや豆腐、野菜などを入れて、ストーブの上に置いた大鍋で煮込んで食べます。同僚や家族と同じ鍋をつつき、励まし合いながら厳しい労働に臨んでいたこの家庭料理を、のちに、まちの名物にできないかと考え、平成17(2005)年に「がんがん鍋」と命名されました。ホルモンを使った鍋という基本ルールを守りつつ、各店それぞれのアレンジが楽しめます。

問い合わせ先/0125-32-1841(赤平観光協会)
「炭鉄港」検定上級ガイドの大山幸彦さん

口に入れた瞬間から「酒が欲しい!」と思うはず。なんといっても、味噌や野菜によって味わい深く甘いんです。そしてそのなかで存在感を出すホルモン。レバーが特に味噌を吸い込んでおり、旨味の威力がすごい。ビールだけじゃなく、ご飯にもぴったりでいくらあっても足りません。無理なく食べられる、究極のパワーフードです。

夕張市 “100万トンの夜景”を支えたアツい一杯 夕張カレーそば

夕張市 “100万トンの夜景”を支えたアツい一杯 夕張カレーそば

夕張市 “100万トンの夜景”を支えたアツい一杯 夕張カレーそば

夕張は最盛期には24もの炭鉱があり、約12万人の人口がいたという空知炭田の中核都市。炭鉱の周囲ににぎやかな繁華街があり、そのネオンは「100万トンの夜景」といわれるほどでした。そこで生まれたのが「夕張カレーそば」。豚バラ肉と玉ねぎが入ったカレーつゆは、香辛料とだしが効き、とろみがあるのが特徴。厳しい寒さのなかでも冷めにくく、労働で疲れた体を芯から温めてくれたようです。炭鉱閉山後、その味が口コミで広がり、名物料理となりました。炭鉱の歴史を知る昭和4(1929)年創業の「そば処 吉野家」ほか、市内の各店で味わえます。

問い合わせ先/0123-52-3141(夕張市地域振興課企画係)

カレーの海の中に蕎麦が溶け込んでいる感じです。カレーあんの味わいはとても複雑。スパイスが効いていて、奥深いんです。さらにわりと辛めのカレーの奥からは、びっくりするほどたくさん麺が出てきます(笑)。完食に小一時間かかるほどの圧倒的な存在感ですが、それがやみつきになるはずです。

「炭鉄港」検定上級ガイドの大山幸彦さん

芦別市 価格も栄養も優等生 炭鉱ホルモン

芦別市 価格も栄養も優等生 炭鉱ホルモン

北海道では開拓とともに、養豚が導入されました。戦時には肉は食料として、皮は軍需品用として使われていきます。農地拡大とともに、養豚も道内に拡大。それでも庶民にとって、精肉はなかなか口に入るものではなかったそうで、もともと捨てられていたモツをおいしく食べようと、炭鉱で働く人々にはホルモン料理が浸透していきました。安くて手軽に、そしてお腹いっぱいに食べられて精がつく炭鉱ホルモン。夏は暑く、冬は寒さが厳しい内陸部の空知では濃いめの味付けが好まれていました。芦別が炭鉱街として活気があったころから続く、昭和40(1965)年創業の「ホルモン・焼肉 三千里」を中心に、今もその味を守っています。

問い合わせ先/0124-27-7700(一般社団法人芦別観光協会)
「炭鉄港」検定上級ガイドの大山幸彦さん

炭鉱街を彷彿とさせるような真っ赤に炭が燃える七輪に、下味がついたホルモン、レバー、サガリを載せる高揚感がたまりません。甘めのタレに、おろしニンニクとコチュジャンを加えて、あとはホルモンをどんどん焼いてひたすら食べる。脂が落ちるので、思っているよりしつこくなく、まるでふんわり炊いたような食感で、箸もビールも止まりません。

炭鉄港めしの新潮流  “イメージ”めし

炭鉄港めしの新潮流  “イメージ”めし

地域産業とそこで暮らす人々が育んだ、いわば“レジェンド”炭鉄港めしのほかにも、近年、石炭などをモチーフにした「新・炭鉄港めし」が登場。赤平市の「塊炭飴(かいたんあめ)」は、赤平市で産出されていた高品位の石炭になぞらえたもので、石炭のように黒くゴツゴツした素朴な甘さがどこか懐かしい飴。美唄市の「石炭やきそば」は炭鉱マンが手を汚さずに食べられるようにと袋からそのままでも食べられる焼きそばを、石炭をイメージした黒で仕上げた逸品。往時に敬意を払いつつ、コラボしたユニークな品々はお土産にもぴったり。

一部の北海道のドライバーやガイドの間では、塊炭飴は眠気覚ましの特効薬として有名です。ニッキの強い香りとビートの優しい甘み、そして本当に石炭みたいな硬質な食感が口の中で踊り、シャキッとする事間違いなし!もちろん僕の家でも常備してます。

「炭鉄港」検定上級ガイドの大山幸彦さん